第四話 金太郎お前もう捨てたる!

病気のラクダ。

それが判明してからの心細さが半端やない。

それまで気にしていなかったけど、金太郎の遅さが気になるようになった。

地図がない、GPSもないし、道に標識なんてないから、どんぐらい進んどるか分からん。

試しに、スタートからどのくらい進んどるか、インド人に訪ねてみるんやけど、

『20km』

っていう人もおれば、

『50km』

っていう人もおって、正確な距離が分からん。

ほんま、ようそんなに分からんことを堂々と話せるもんやと、適当さに呆れる。

もっとガンガンに進みたいのに、虚ろな目でトボトボ歩く金太郎に、だんだん腹が立ち始めた。




『おめー、しっかり歩け、ハゲジジイ!』



小学生レベルの言葉で罵る。

伝わるはずもないのだが、声のトーンで怒ってるのが分かるらしい。

目をチラッと向けて、2秒くらい頑張ったふりをする、ほんでまたのんびりモードに戻る。

またそれも腹が立つ。



出発の時に買った、エサが底をつきた。

今日は村で手に入れんといけん。



『このエサはこれから通る村から持ってきたものやから、村で聞けば簡単に手には入るよ』


出発前の情報で、そう聞いてたから、エサについて心配はしてなかった。

出発前に覚えた言葉で、村のおっちゃんに尋ねる。




『ムジェ.ウート.カ.チャラ.レナヘ!』
(ラクダのエサが買いたいです。)




決まった。

完璧に伝わっている。

覚えた甲斐があった。

と思ったが、何やら反応が悪い。





『ムジェ.ウート.カ.チャラ.レナヘ!』






『ムジェ.ウート.カ.チャラ.レナヘ!』








『ムジェ.ウート.カ.チャラ.レナヘーッ!!』








いくら連発しても、反応がいまいちや。

なんだよ、どうしたんだよ。

すると、英語が話せるにーちゃんが出てきて聞く。





『何って名前のエサ?』










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ふぁっつ?

え、エサに銘柄とかあるの?

基本、草ならなんでも食うんちゃうの?

てか、村人は知っとるんちゃうの?

はてなマークがフワフワ浮かんでいたが、ハッとする。






『ここの人、ラクダについてなんも知らんのや。』






街中での異常な歓声。

これは全て僕に降り注ぐ大歓声かと思い込んでいたが、そうやなかったんや。

観光地からはもうずいぶん離れた。

ラクダを目にすることなんて、ほとんどない村。

そんな中、ラクダが何を食べるかなんて知っとる人はおらん。

出発前に情報を貰ったおっちゃん、彼はエサの名前を知っとる。

やから、そのエサの名前で尋ねれば、手にはいるんだろう。

しかし、僕は前情報に安心して、なまえなんて知らん。

おまけにエサは全部食いつくしてしまっている。

どうしまひょうか、途方に暮れていると、

『これちゃうか?』

と、気のきくおっちゃんがエサを持って来てくれた。

『おー、完璧や、完全にそれや!!』

現れたのは見た目がバッチリ同じエサ。

えかったー。

意気揚々と出発した。

が…



昼時、ランチやでー!

と、エサを差し出すも、

食わない。

クンクン嗅いで、プイッと顔を背ける。



『おいおい、なんでやねん!』

『全く同じエサやん!』

『何が不満やねん、食えよ、食わんと進まれへんやろ!』



無理矢理顔をエサに近付ける。

が、

『もー、やめてっ!!!』

って顔して怒る。

結局、金太郎はこの昼飯を食わずに終わった。



分からん、どう違うんや、どの飯なら食うんや。

1つだけ、金太郎が食べる物を知っていた。





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道端に生えてるこの木。

しゃあない、しばらくこれで食い繋ぐしかない。

美味しそうに、青々と繁る木に連れて行き、無くなっては、別の木に連れていき。

完全に遊牧民生活。

別にええやん、って思うかもしれんけど、これやとまずい事がある。

金太郎さんは、お上品に、一房ちぎっては、ゆっくりと咀嚼する。

それが、もう、箱入り娘のお嬢さんよりも、お上品なのだ。

いくら時間をかけても、そんなんやったら、僕ですら、お腹一杯にならん。

最初は、よしよし、食えよーって思って見てたけど、だんだんイライラしてくる。

『さっさと食えよ、そんなんやったら、
全然前に進まれへんやろ!』

金太郎にしたら、いい迷惑である。

僕が、エサの名前を知っていればよかっただけの話。

やけど、先に進みたいって思う僕の気持ちと、金太郎のペースが全く噛み合わず、もどかしさが募る。

こうして、予期せぬ遊牧民生活が始まる。




日が暮れてきた。

長いような、短いような1日。

真っ暗になる前に寝床を探さないと。

そう思ったタイミングで、なんとも調子のいい若いにーちゃんが現れる。

『ヘイ、ブラザー、おもろいことやってんのー!うちに泊まっていかねーか!?』

なんともありがたい、早速甘えようではないか。



どこが家ですか?

『おー、こっからちょいと右に外れた村なんだけどよ、まー1kmくらいやな。』

めっちゃ近いやん、是非行かせてくれ!

『おー、いいぜいいぜ!』

やった、今夜は安心して眠れる。

『あ、俺はバイクやから、先帰ってるわ、この道真っ直ぐ行って、左手の家やからな!』

ブーン。

行っちゃったよ。めっちゃざっくりした説明だけ残して。

まあ、行けば分かるよな。

そう思い、彼の後を追う。

が。

なんぼ歩いても、家らしきものは現れない。

1km、2km、3km…

ほんまにあるんけ。

不安が募る中、ようやく左手に家らしきものが見えてきた!

『やったー、着いたぞー!!!』

今日は安心して眠れる、そんな喜びと共に家に寄っていく。





家の前には、おばちゃんがいた。

『こんばんはー!泊めて貰えるみたいで、ありがとうございやすー!!』


おばちゃんの横には一匹のバッファローがいた。

『いやー、心細かったとこなんすー、ほんまありがとうございやすー!』




完全に家の前に着いた時、ある異変がおこる。




『パフーン!!!!!』





おばちゃんの横にいた、バッファローが暴れ始めたのだ。


ゲっ、まずい。




話は少し逸れるが、僕はラクダ旅を初めてから、ラクダの祖先は恐竜やと思うようになった。

なぜかというと、まずこのフォルム。



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完全にブラキオサウルスとしか思えない。



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加えて、どこのどんな動物も、ラクダを目にすると一目散に逃げ出す。

時には、スッテンコロリンする牛もいるほど。

それくらい、ラクダは他の動物から恐れられている。





その、恐竜を目にしたバッファローは暴れ始めたのだ。



ゲっまずい。

なぜそう思ったかというと、そのおばちゃんが右手にバケツを提げていたからだ。

すぐに気付いた。

おばちゃんは、バッファローから搾乳するとこやったんだ。



旅に出て知ったことだが、バッファローの搾乳は、かなり骨がおれる。

まず、子牛を近付け、母牛の乳が出る状態をつくる。

ほんで、子牛が飲んでしまわないよう、子牛を遠ざける。

牛をなるべく刺激しないような状況をつくり、初めて搾乳ができる。

これだけの大仕事を終え、さぁ乳を搾るぞ、というタイミングで、百獣の王、金太郎が現れたのだ。

一瞬、空気が凍り付くのを感じた。

その直後、おばちゃんの怒りの混じった悲鳴が轟く。

それを聞き付けた、亭主が、鬼のような形相で現れる。




『おいてめぇーーーーー!!!!
何しに来やがったクソがーー!
さっさとあっちへ行きやがれ、
二度と近づくなボケぇーー@%&#$¥@&&%¥¥』



まさに悲劇とはこのことか。

僕の言葉なんて一言たりとも伝わらなかった。




もう日が暮れた。

日中は僕たちはヒーロー。

だけど、日が暮れると現地人の態度は一変する。

真っ暗な中、ラクダを連れた外国人が村を徘徊している。

この上なく気持ちが悪いだろう。

村人と遭遇するたび、

『シッシッ』

っと、追い返される。

もう真っ暗だ。

さすがに堪えた。

凄まじい孤独感の中思う。

『なんでこんなこと始めてしまったんだろう』

なんもおもんない、

しんどい、

帰りたい。

自分がしていることの無意味さに悲しくなる。



それからしばらく歩き続けると、金太郎が初めて自分から足をついた。

今日はもう無理だ。

真っ暗な荒野が、孤独感を煽った。















出発前: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/03/111033

第一話: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/26/183646

第二話:http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/27/173210

第三話: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/28/164651