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第七話 お金と旅

国道に出てから、旅の様子がガラッと変わった。

車を避けながら歩く為に、金太郎のスピードは前に比べて大きく落ちる。

出会う人々の反応も大きく変わった。

相変わらず声はかけられるが、なんとなく距離感がある。

ここは、大きな都市と都市を結ぶ道。

当然外国人が訪れる観光都市も含まれる。

その為、稀な外国人ではなく、商売相手の外国人っていう感じなのだ。






どんな場所にいても、日は昇り、そして沈む。

今日も既に日は沈み始めていた。



『どこに眠ろうか。』



それが気掛かりだった。

ここは国道沿い。

車の往来が激しく、昼夜を問わず人目が途絶える事がない。

そんな中、自分の体ひとつならまだしも、金太郎の巨体を隠すのは不可能に近い。

かといって、うちに泊まれなどという、仏の声もかからない。

どこに泊まればいいのか検討もつかない。

そんな中、あるひとつの情報を得た。






『ダバ』なら仮眠をとる事ができる。






ダバというのは、主にトラック運転手用に設けられた休憩所。

インドという広大な土地を駆け巡る運転手たち。

当然運転時間も並大抵のものではない。

その運転手たちが、食事、トイレ、夜の仮眠をとるような場所として、ダバは存在している。

いわば、日本の道の駅のようなものだ。





『しめた!』






急いで教えてもらったダバとやらに向かう。

ダバに到着すると、情報通り、多くの運転手たちが、長旅を癒していた。

早速交渉に入る。




『一晩泊めて貰えませんか?寝床がなくて困っているんです。





いいよ!



店主は意外とあっさりと許可をくれた。

助かった。

今夜もなんとか夜を繋げそうだ。

ほっとしながら、金太郎のパッキングをほどく。

すると、何やら店主が寄ってきて肩を叩く。

振り向くと店主は手を差し出していた。

おぉ、ありがとう、手伝ってくれるんか、てんきゅー!

店主は首を振る。

じゃあなんや?


























『金だよ金、400円。』




























はい?










あの、お金は要らないと聞いたんですけど。

すると、店主は信じられない事を口にする。


















『おぉ、無料だぜ。やけどな、お前は外国人だ。金を持っているやつが、金を払うのは当然だ。』
























愕然とした。

こんなにもあからさまに、外国人として区別されたのは初めてだった。








考えてみれば当たり前なのかもしれない。

ラクダといえば、お金持ちの象徴。

そのラクダを連れて、娯楽の旅をしている外国人。

現地人と比べるととんでもない金持ちなのは明らかな事実。

加えて、日は暮れてしまった。

ラクダを連れて途方に暮れているのは明らか。

足元は、がら空きだ。







確かに僕はお金を持っている。旅ができる、ラクダを買うことができる余裕がある。

だけど、それはそうなのだけども、同じ人間なのに、こうも堂々と区別されたのがショックだった。

払って泊まってしまえば簡単だ。

安心して疲れを癒すことができるだろう。

だけど、だけど、それでいいのか。

こんな不当な区別をお金で誤魔化してしまってもいいのか。

僕たちよそ者は、この人たちにとってお金でしかないのか。

お金を通してじゃないと繋がることが出来ないのか。

正直400円くらい払うのは容易い。

やけど、このお金を払うことで、大切なものを失う気がした。















『決めた、ゴールするまでお金は使わない。』

















ゴールまで250kmほど。

約10日間。

それまでお金は封印する。












店を離れる。

思いは伝わらなかった。

店主は何故、たかが400円をケチるのか訳が分からないと、呆れ顔で僕を眺めていた。












外に出ると、日は完全に沈んでいた。

真っ暗闇の中、懐中電灯片手に国道の脇に繁る藪の中を進む。

トゲだらけの枝を掻き分けながら、なるべく人目のつかない場所を探す。

枝を調理用の包丁で切り割いて、なんとか金太郎と僕のスペースをつくる。

辺りからは人の声。

国道を通る車のライトが何かに反射して、不審者を探す懐中電灯のように僕たちを照らす。

その光に一人怯える。








『村に戻りたいな。』






村人の暖かさが当たり前になっていた自分に気付く。

目を閉じながら思う。

あぁ、あの400円を払えば、今頃安心して眠りについているんだろうな。

これでよかったんかな。






答えの出ないまま意識は遠のいていった。