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第十話 インドの新聞一面を飾る

冬の朝は目覚めが遅い。

朝5時に出発して、2時間ほど歩いただろうか。

太陽はまだ、ぐっすり眠っている。

暗闇の中を車に轢かれないように、金太郎から降りて歩きながら、細心の注意を払い進む。



「車来ないかな」



ふと後ろを振り返ると、1つの人影がある。






「なんか嫌やな…」






自然と足が早まる。

するとどうだろう、後ろの人影までも足を早め始めた。

さらに早める。




「やっぱりだ。」




同じように後ろの人影もついてくる。






「完全に僕たちをつけている。」






こんな朝早く誰だ。

も、もしや昨日の若い男…

身の毛がよだつとはまさにこのこと。







「に、逃げるしかない!」







力一杯走り出す。

が、寝ぼけまなこの金太郎はのんびり歩いている。







「は、早くしろ!追い付かれる!!」








金太郎の鼻から伸びるツナを力いっぱいひっぱる。

が、思うように進まない。

と、もたついていたその時。


















『おい。』

























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ギョエーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!

















や、やっぱり僕だ、僕をつけてきたんだ!!

ま、まずいぞ!

どうする!?

心臓は今にも張り裂けそうな程に高鳴る。

追い付かれた、終わった。

強ばる面持ちで、声がする方向に振り向く。









するとどうだろう。

そこに立っているのは、昨日の若い男ではなく、一人のおっちゃんやった。












『おい、お前かラクダで旅をしている日本人とは。』

は、はい。



『どこからきた。』

プシュカルです。





『どこへいく。』

ジャイサルメールです。







おっちゃんの質問は続く。






『歳は』
『仕事は』
『なぜインドなんだ』
『なぜラクダなんだ』
『ラクダはいくらで買った』
…………








答えながら思う。









もしや警察か。

国道に出て、一目につくようになり、僕がラクダと旅をしていることは、瞬く間に噂として広がった。

その噂を聞きつけ、不審に思った警官が僕たちを追ってきた。

そういうことか。




ここまでなんとか無事に切り抜けてきた。

ゴールのジャイサルメールまでは、目と鼻の先まで迫っていた。

それだけに悔しい。

あと、あと少しなんだ。

せめて、ゴールにたどり着くまで待ってくれないだろうか。

唇を噛み締めながら、質問に答えきった、その時。

おっちゃんは驚きの一言を口にした。
































『写真を撮らせてくれないだろうか。』


































へ?







「い、いいけど、おっちゃん、そんなもん撮って一体何するっていうんだよ。」






すると、おっちゃんは一枚の名刺を差し出しながら言った。















『新聞記者の者です。あなたの旅をスクープしたくて取材させて貰いました。』
























へ?

一気に拍子抜けする。

なんだよおっちゃん、それならそれで早く言ってくれや。

めちゃくちゃビビったやんけ!笑






馴れない写真撮影を終え、おっちゃんは颯爽と帰っていった。




「あーよかった…」
























驚いたのは翌朝。

いつものように金太郎と歩いていた。

が、人々が僕たちを見て、何やらこそこそ話している。




「なんやねん。」





理由の分からない、こそこそ話に気を悪くしていたその時。

後ろから来た一台の車が、僕たちの横にピタリと停まった。

すると、一人の男が窓を開け、僕に問う。













『アーユー、マサヒロ?』

















え?

なんで僕の名前知ってんの?






その男は何やら鞄から引っ張り出し、僕に差し出した。











『お前今日の新聞の一面に載ってっぞ。』



















へ?

い、いちめん?









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そこには、でかでかと新聞の一面を飾った僕と金太郎がいた。

これ、どゆこと?笑










そこからが凄かった。

歩けば歩くだけ人が寄ってきて、写真や握手を求める。

新聞を見たテレビ会社、新聞記者らが続々と取材に現れる。

中には地方番組でなくインド全土に流れるニュース番組のキャスターもいた。

その数、新聞3社、テレビ8社。

小学生の時に、地方ニュースの番組で、隅っこで田植えしてる姿で映って以来のテレビ出演をインドで果たした。









あぁ、ずっと、警察に怯えたり、夜の人の目に怯えたりしてた。

悪いことをしてる気持ちでいてた。

自己満足のわがままでいろんな人に迷惑をかけてるって、引け目に感じてた。

やけど、ニュースや新聞に出るってことは、僕がラクダで旅をしている事を、おもろいって思ってくれる人がいるわけで。

誰かを笑わせられたというわけで。



そう考えたら、喜びが沸き上がってきた。









『うぉーい、わし、こいつ泊めたったんよ!凄くね!?』








ここまでの旅路の中、僕たちに優しくしてくれたじーちゃんたちが、みんなに自慢してる姿が目に浮かび、思わず顔がほころんだ。

少しだけ、ほんの少しだけ恩返しになったかな。









ゴールまであとわずか。


今日も金太郎と僕は少しずつ、でも確実に、足を進めていた。