第五話 神様との出会い

『あぁ、帰りてぇなー、帰りたい。ってもどこに帰ればいいか分からんのやけどね。』



旅の初めは、火から起こして料理するとか、なかなか粋やな。

なんて思っとったけど、今は面倒以外の何物でもない。

インドの荒野にある木は、何故かどんな植物にも、イカツい強靭なトゲが所狭しと蓄えられている。

そのせいで、手はあらゆるところの皮が剥けてその傷にまた新たなトゲが刺さりで、悶絶する。

植物もインドで生きていくのは大変なんだろう。

米にインスタント麺をぶち込んだ、なんとも粗末なご飯が心を虚しくさせる。

ひもじい昼食を食べていると、何やら人の声が聞こえてくる。


『フォッフォッフォッー』


振り向くと立派な白い髭を蓄えたじーちゃんが、ぽつんと立っている。


『フォッフォッフォッー』


なんやねん、不気味やな。


『フォッフォッフォッー』


じーちゃんは、僕の隣にちょこんと座る。

なんやねん、じーちゃん。


『フォッフォッフォッー』


あかん、このじーちゃんイッてるわ。

急いでパッキングを済ませ、逃げるように出発した。

が。


『フォッフォッフォッー』


やばい、ついてくる。

しばらく歩くと、村に差し掛かった。

するとじーちゃんは、僕の腕を掴み、家の中に連れ込む。

なんやねん、なんか怖いねん。


『フォッフォッフォッー』


じーちゃんはそう言いながら、1つのベッドを俺の前に持ってきた。

へ?


『フォッフォッフォッー』


多分、たぶんだ、この感じからすると、恐らく9割くらいの確立で、ここに寝てえぇっちゅうことや。


『フォッフォッフォッー』


じーちゃんは次にベッドの回りで、ガサガサ作業に取り掛かる。

なんやろうか。

黙って見ていると、じーちゃんは木と紐とビニールで、何かをつくり始めた。


『フォッフォッフォッー』


30分後、じーちゃんは満足気な顔で僕を見つめる。

そこには、ちいさな小屋が作られていた。

多分だ、恐らくこの感じからいって、95%くらいの確立で、この小屋で眠っていいということや。









しばらく横になる、

すると、金太郎を休ませている辺りから、なんか物音がする。

なんやろうか。

近付いてみる。

すると、じーちゃんが金太郎にエサを与えているではないか。

『あ、忘れてた。』

昼飯時に、例の草を食べさせたきり、自分の事で精一杯になり、金太郎のエサの事なんか頭になかった。

じーちゃんは、その後、近くの水飲み場まで、金太郎を連れていった。

じーちゃんは金太郎が歩く道に落ちるトゲを1つ1つ丁寧に取り除きながら、金太郎をエスコートしていた。

はっとさせられる。

僕は今まで、ラクダの足は頑丈やから、少々のトゲなんて大丈夫やろと思い込んでた。

やけど、ラクダやって痛いに決まっとる。

痛くて痛くてしゃーないかもしれん。

それ以外の行動もそう。

じーちゃんの行動を通して、僕がどれだけ金太郎を同じ生き物として見れていないのか、まざまざと叩きつけられた。


『あぁ、僕はラクダ使い失格やな。』


金太郎の目を見ると、



『お前じゃねぇんだよ』



って言われてる気がした。









夜、じーちゃんは、晩御飯を御馳走してくれた。

具がほとんどないカレースープと、
小麦粉を捏ねて焼いたチャパティーというパン。


『フォッフォッフォッー』


じーちゃんは休む暇もなく、僕の皿にお代わりを供給し続ける。




いや、僕もうお腹いっぱいやから。









『フォッフォッフォッー』
チャパティー2枚追加。










頑張って食べきる。













『フォッフォッフォッー』
チャパティー2枚追加。












死ぬ気で押し込む。














『フォッフォッフォッー』
チャパティー3枚追加。















おいこらー!もう食えんっちゅうねん!!


『フォッ?』







最高に旨い晩御飯が終わって、くつろいでいた。

大体がこの時に凄まじい質問攻撃となる。

が、じーちゃんは何一つ聞いてこない。

今現在じーちゃんの中にある情報は

・恐らく外国人
・恐らく男
・なぜかラクダを持っている

という情報のみ。

当然質問だらけのはずだ。

すると。

じーちゃんは電話を始めた。

あー、これで通訳してもらっていろいろ聞くつもりやな?



『フォフォフォッ?フォーフォフォ!』



何やら話している。

やがて、予想通り電話が回ってきた。

電話口には一人の男がいた。


『はろー!じーちゃんが、この家は安全やから安心してゆっくり寝てねやとさ!』









へ?それだけ?

それだけだった。

それを伝える為だけに、おっちゃんは電話したんや。

見ず知らずの、

いや、何処の国の、

何をしてて、

何故かラクダを持っている、

得たいの知れない人間に、

何故ここまでしてくれるんやろう。

感動なんてしなかった、できんかった。

只々なんでやろうって思いが頭の中を渦巻いた。








翌朝、じーちゃんは僕よりも早く起きて金太郎のエサをこしらえていた。

やがて家には村中の男が集まり、僕の出発を見守っていた。


『フォッフォッフォッー』



じーちゃんの愛は、外国人の僕にも、

ラクダの金太郎にも、

じーちゃんの仲間や家族にも、

同じように注がれていた。






あぁ、この人はほんまに神様なんかもしれん。









『今まで出会った中で最も神に近い男。』









いや、多分あのじーちゃんは神様やったんやないかな。


感謝というか、不思議でたまらないフワフワした感覚で、じーちゃんの家を後にした。
























『ゲブゥォォォォォォォォッ!!!!!』





















お腹も心も満たされた金太郎のげっぷが僕の顔面を直撃した。

あぁ、今日も始まったんやな。















出発前: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/03/111033

第一話: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/26/183646

第二話:http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/27/173210

第三話: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/28/164651

第四話: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/29/171841