最終話 旅の終わり

出発して、今日で18日目。

ゴールのジャイサルメールまで35km。

今日が最後の日だ。

早朝5時、気合いを入れてスタートを切った。

眠たい金太郎に今日も鞭を打つ。

もう少し、もう少しで夢にまで見たジャイサルメールに到着する。

今日という日は特別な日。

でも、やることはいつもと変わらない。

ただ、どっしりと前を見据え、ひたすら足を進めるだけだ。

日が昇り、沈んでいく。

それをただ見つめていた。

登り坂を登りきり、太陽が沈みかけたのを見たとき、そこに街が現れた。





「あれがジャイサルメールだ。」






東、太陽が昇るプシュカルから、

西、太陽が沈むジャイサルメールへ。

600km18日間の旅が終わろうとしている。

沈む夕日を眺めながら、この旅を思い返す。




ラクダ旅を思い付いて、ワクワクに満ち溢れたあの日。

ラクダを目の前にして、恐ろしくなって逃げたあの日。

諦めきれなくて、戻ってきたあの日。

クリスマス、街が幸せに包まれているなか、部屋に籠って、踏み出せない自分に泣いたあの日。

友達に、「だせぇぞ」って背中を押してもらったあの日。



不思議と思い出すのは、旅中の辛かったことじゃなくて、出発前、もがいていた自分だった。

出発前、どんな苦しいことが待ってるだろう。

それに耐えれなかったらどうしよう。

その恐怖に怯えてた。

だけど、今思い返すと、一番苦しくてどうしようもなかったのは、自分自身の可能性を踏み潰そうとしていた、出発前のあの時だった。




街はどんどん近付いてくる。

心臓が高鳴る。






「金太郎、金太郎、やったんや、ついに、ついにやったんや!」







金太郎は変わることなく進む。

ゆっくり、でも確かに進む。









気付くと目の前にはジャイサルメールの看板が立っていた。

その瞬間、足が震えた。

押さえても止まらないような震えだった。

それが、この時の喜び全てだった。






「この旅をして何になっただろうか。」






そう考えると、笑えるほど何もない。

ラクダはどう扱うか。

何を食べるか。

野宿はどんなところがいいか。

おそらく、もう一生使うことはないだろう。

何の学びになって、どう成長したか。

それも分からない。

ただ、これだけは言える。




足が震える喜びがあった。





ってこと。

ほんまに、それ以外ない。

そして、それが何よりも満足だった。



何の為に、とか、誰かの為にとか、

楽しいって何とか。

僕はそうやって悩むのが好きな人間なんやけど、

生きるってもっとシンプルだ。

悩むこと、行き詰まること、多分これからたくさんあるだろう。

でも、これから道に迷った時には必ず思いだそう。

「あぁ、僕は、こんな風に足が震えるような喜びを感じる為に生きていたい。」

そうこの旅の終わりに思ったことを。











到着して友達に連絡した。




「生還しました!」





そしたら、




「おかえり」





って返ってきた。

どうやった?とか、おもろかった?とかじゃなく、ただただ「おかえり」って。

あぁ、生きて帰ってよかった。

いや生きて帰るだけでよかったんだなって、幸せに包まれた。

そしたら、旅を支えてくれたみんなの顔が思い浮かんだ。

神じいちゃんとか、ジジイ・テレサとか、道で支えてくれたたくさんの人たち。

「あなたたちの支えがあったから、生きて帰れました。ほんまにありがとう。」












到着して2日後。

金太郎はジャイサルメールの売人に引き取られていった。

金太郎の首を思いっきり撫でて言った。






「ありがとう、ほんまにありがとうな。お前のお陰でゴールできたんや。」






金太郎は何も言わずに、ずっと遠くを見据えていた。



「そうやな、お前にとってゴールなんて無いんやな。」



そう言った後気付く。



「僕もゴールなんてないはずや。」














次の日、僕は別の街まで、電車で移動していた。

窓際で、ボーッと外を眺めていると、木が生い茂っていた。










「あっ、これ金太郎、うまいやつや!めっちゃ生い茂っとる!!」














そう思うと同時に、もう金太郎はいないことに気付く。

あぁ、終わったんやな。






「また、ぼちぼち、歩きだそうかな。」





今度は自分の足で。






































って、終わればかっこええやん。


















バカヤローーーーーーー!!!!!!!!!










そんな格好よくないねん!

最終話、なかなか投稿できひんねーん!

この文章、ほんまは大分前にできとったねん。

このラクダ旅を終えた時に書いてたこと。

これで間違いないねん。

やけどな、やけどな、

今全然ちゃうねん。

終わった時の自分と今の自分のギャップがすごいねん。

見たい?
















見たい?


















































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これよ。






一日中、ぐだって、

もぬけの殻やねん。

あの時の思いは色褪せていって、

今は進む気力がないねん。

やから、今の気持ちじゃなさすぎて、

投稿するの嫌やったんやけどな。

やけど、区切りの為にも載せる。

今回の旅で気付いた。

ほんまにおもろいことやるのは、マジでしんどい。

それが、これから生きていく先に、永遠につづく。

ビビって、言い訳して、また戻ってきて。

こんな、繰り返しやねん。

果てしないわ、マジで。

でもな、こうして書いてる今も確実に思う事がある。



「もっともっと幸せを感じたい。」




やから、あの時の手応えを頼りに、次に進んでいく。

気持ち作って、次にいくで。

よーし、終わり!!!!!!

第十話 インドの新聞一面を飾る

冬の朝は目覚めが遅い。

朝5時に出発して、2時間ほど歩いただろうか。

太陽はまだ、ぐっすり眠っている。

暗闇の中を車に轢かれないように、金太郎から降りて歩きながら、細心の注意を払い進む。



「車来ないかな」



ふと後ろを振り返ると、1つの人影がある。






「なんか嫌やな…」






自然と足が早まる。

するとどうだろう、後ろの人影までも足を早め始めた。

さらに早める。




「やっぱりだ。」




同じように後ろの人影もついてくる。






「完全に僕たちをつけている。」






こんな朝早く誰だ。

も、もしや昨日の若い男…

身の毛がよだつとはまさにこのこと。







「に、逃げるしかない!」







力一杯走り出す。

が、寝ぼけまなこの金太郎はのんびり歩いている。







「は、早くしろ!追い付かれる!!」








金太郎の鼻から伸びるツナを力いっぱいひっぱる。

が、思うように進まない。

と、もたついていたその時。


















『おい。』

























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ギョエーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!

















や、やっぱり僕だ、僕をつけてきたんだ!!

ま、まずいぞ!

どうする!?

心臓は今にも張り裂けそうな程に高鳴る。

追い付かれた、終わった。

強ばる面持ちで、声がする方向に振り向く。









するとどうだろう。

そこに立っているのは、昨日の若い男ではなく、一人のおっちゃんやった。












『おい、お前かラクダで旅をしている日本人とは。』

は、はい。



『どこからきた。』

プシュカルです。





『どこへいく。』

ジャイサルメールです。







おっちゃんの質問は続く。






『歳は』
『仕事は』
『なぜインドなんだ』
『なぜラクダなんだ』
『ラクダはいくらで買った』
…………








答えながら思う。









もしや警察か。

国道に出て、一目につくようになり、僕がラクダと旅をしていることは、瞬く間に噂として広がった。

その噂を聞きつけ、不審に思った警官が僕たちを追ってきた。

そういうことか。




ここまでなんとか無事に切り抜けてきた。

ゴールのジャイサルメールまでは、目と鼻の先まで迫っていた。

それだけに悔しい。

あと、あと少しなんだ。

せめて、ゴールにたどり着くまで待ってくれないだろうか。

唇を噛み締めながら、質問に答えきった、その時。

おっちゃんは驚きの一言を口にした。
































『写真を撮らせてくれないだろうか。』


































へ?







「い、いいけど、おっちゃん、そんなもん撮って一体何するっていうんだよ。」






すると、おっちゃんは一枚の名刺を差し出しながら言った。















『新聞記者の者です。あなたの旅をスクープしたくて取材させて貰いました。』
























へ?

一気に拍子抜けする。

なんだよおっちゃん、それならそれで早く言ってくれや。

めちゃくちゃビビったやんけ!笑






馴れない写真撮影を終え、おっちゃんは颯爽と帰っていった。




「あーよかった…」
























驚いたのは翌朝。

いつものように金太郎と歩いていた。

が、人々が僕たちを見て、何やらこそこそ話している。




「なんやねん。」





理由の分からない、こそこそ話に気を悪くしていたその時。

後ろから来た一台の車が、僕たちの横にピタリと停まった。

すると、一人の男が窓を開け、僕に問う。













『アーユー、マサヒロ?』

















え?

なんで僕の名前知ってんの?






その男は何やら鞄から引っ張り出し、僕に差し出した。











『お前今日の新聞の一面に載ってっぞ。』



















へ?

い、いちめん?









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そこには、でかでかと新聞の一面を飾った僕と金太郎がいた。

これ、どゆこと?笑










そこからが凄かった。

歩けば歩くだけ人が寄ってきて、写真や握手を求める。

新聞を見たテレビ会社、新聞記者らが続々と取材に現れる。

中には地方番組でなくインド全土に流れるニュース番組のキャスターもいた。

その数、新聞3社、テレビ8社。

小学生の時に、地方ニュースの番組で、隅っこで田植えしてる姿で映って以来のテレビ出演をインドで果たした。









あぁ、ずっと、警察に怯えたり、夜の人の目に怯えたりしてた。

悪いことをしてる気持ちでいてた。

自己満足のわがままでいろんな人に迷惑をかけてるって、引け目に感じてた。

やけど、ニュースや新聞に出るってことは、僕がラクダで旅をしている事を、おもろいって思ってくれる人がいるわけで。

誰かを笑わせられたというわけで。



そう考えたら、喜びが沸き上がってきた。









『うぉーい、わし、こいつ泊めたったんよ!凄くね!?』








ここまでの旅路の中、僕たちに優しくしてくれたじーちゃんたちが、みんなに自慢してる姿が目に浮かび、思わず顔がほころんだ。

少しだけ、ほんの少しだけ恩返しになったかな。









ゴールまであとわずか。


今日も金太郎と僕は少しずつ、でも確実に、足を進めていた。

第九話 最後の関門

「よっしゃー!!!もう少しべっ!!!」






国道には、『ジャイサルメールまで100km』
の文字が掲げられていた。

農場を後にするとき、ジジイ・テレサは僕に5日分の金太郎のエサを授けてくれた。

おかげで、スピードは俄然上がっていた。

残り100km。

長かった500kmの道のりは、もう既に、僕たちの後ろに刻まれていた。

スタートしたばかりのとき、





『無理だ』
『死ぬぞ』





と言われた金太郎は、今日もゆっくりではあるが、確かに一歩一歩、足を進めていた。

理不尽に怒りをぶつけた時もあった。

僕の都合でご飯を食べさせてやれない時もあった。

それでも金太郎は僕についてきてくれた。




「なんて無力なんやろうな。」




これだけの巨体を持ち、僕なんて踏み潰してしまえば一瞬なのに、金太郎はどんな時もついてきてくれた。

ありがとうな、という気持ちと同時に、





「あぁ、僕はどれだけ幸せなんだろう」





そんな気持ちになった。

いつでも、どんな時でも、僕は自由だ。

ラクダのように、ツナを繋がれ、エサを食べる為に生きていることなんてない。

いつだって、自分が何かを思い、動きだせば、エサを食べるよりも、もっと幸せな事を掴む事ができる。

一生、エサを食べる為だけに生きるなんてつまらない。

僕は僕の感じる幸せを掴むために生きていたい。











僕の大好きな本、カモメのジョナサンとアルケミストにも、そんな事かいてあったな、と、パクってる自分に笑う。

なんにせよ、金太郎がいたからここまでこれた。






「最後まで、しっかり導いてやろう。」







そう誓って歩き出した。

今日も厳しい太陽が照りつける。

帽子を目深にかぶり、どっしりと前を見つめていた。

そんな時、何やら前から不審な看板が現れた。



















『TOLL GATE 100m』


















なんやろう、恐る恐る足を進める。

すると、とんでもない光景が目の前に現れた。






























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りょ、料金所!?

そう、インドの国道には料金所が存在していたのだ。

今まで出くわした事がないこの事態に驚きを隠しきれない。



「まずいぞ。」



お金は使えない。

もし、料金が発生した場合、引き返して別の道を探す事になる。

いや、それどころやない。

料金所で、万が一不審者扱いされた場合、警察に引き渡され、旅の終了を告げられかねない。

おちつけ。

そう言い聞かせ、目の前の看板に目を通す。

看板にはこう書かれていた。












料金

二輪…0円
四輪…200円
大型…500円















当然ながら、ラクダの料金は書かれていない。

遠くから眺めた様子だと、四輪ゲート、大型ゲートには人影があるが、二輪ゲートはがら空きだ。




「あそこだ、あそこしかない!!」




ラクダもバイクみたいなもんや。

そんなよく分からない理論を掲げ、がら空きの二輪ゲートへ突入する。

抜き足、差し足、忍び足。
身を最小限に縮め、こっそりと二輪ゲートをくぐる。

よし抜けた!!

と思ったその時。


















『おい、ちょっと待て。』


















し、しまった、見つかった。

警備員が近寄ってくる。




『何をしてるんだ。』





















































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ふぁい?













最大限のトボケ顔で応戦する。







『何をしている!?』

えーと、ジャイサルメールに向かっています。

『一人でか?』

はい。

『ここで待て。』

警備員はそう言い残し、控え室に戻っていった。






お、終わった…

金を取られるに決まっている。

金を払えないというと、警察に告げられるに決まっている。

旅の終わりだ。

そんな絶望に暮れている中、警備員が戻ってきた。

しかも、何人も連れて戻ってきた。





終わった。








警備員が口を開く。

『ジャイサルメールに行くんだな』

はい。

『一人で?』

はい。

『なんの為に?』

挑戦です。

















































『はっはっは!バカだなオメーは!!そんなアホ見たことねーよ!』

はい?

『アホだねー、おもろいやつやな、気を付けて行けよ!』

あ、はい。お、お金は…

『いらねーいらねー、第一ラクダからいくらとればいいかわかんねーよ!はっはっは!』

よ、よかった。

多分僕と話したかっただけなんや。

面倒な事になる前に、ここから離れよう。

金太郎に力一杯鞭をうち、全力でその場を離れた。












いつものように、不安な日暮れがやってくる。

風景は変わり、辺り一面ひとけのない野原が広がる。

そこら中に、ラクダなどの野生動物がうろうろしている。




「ここで野宿は嫌やな。」




そんな不安を抱えていると、タイミング良く一軒の小さな小屋が現れた。




「うぉ、あっこしかない!!」




せめて、小屋の横にテントでも張らせて貰えれば。

そう思い、小屋に突撃した。

「こんばんはー!」























『あー、こんばんみー!!!』




中から現れたのは、愛想のよい、一人のお爺ちゃんだった。



「小屋の横にテントを張らせてほしいんですが。」



『えぇよーん!てか、小屋の中で寝てもえぇよーん!!』




やった、今日も助かった。

お爺ちゃんに小屋に案内してもらう。

中を覗くと、4畳程のスペースに、小さなベッドと、ちょっとした荷物があるだけだった。




『このベッドの横に布団を敷くとえぇよーん!』





お爺ちゃんの夜は早い。

日が暮れて間もない、夜8時。

軽い夕食を済ませ、床につく。




「お爺ちゃんってやっぱり落ち着くなー。」




疲れと安心感で、すぐに意識は遠のいていった。






































異変を感じたのは、真夜中0時頃。




『ガチャッ』




何者かが、部屋に侵入してきたのだ。

4畳程の狭い小屋。

一気に緊迫感が増す。

だ、誰や…

心臓の鼓動は張り裂けそうなほどに高鳴る。

が、何者か分からない。

しばらく寝たふりをして、様子をみる。





『おい、じーさん…』





入って来たのは、若い男。

その男が、声を押し殺し、寝ているお爺ちゃんに声をかける。

すると、寝ていると思ったお爺ちゃんは、意外にも返事を返す。






「おー、おまえか…」






も、もしやグルか。

僕を誘き寄せておいて、寝ている隙に何かを盗みだそうって魂胆か…

薄目を開き、耳に全神経を集中させる。

もし泥棒だとしたら、じーさんの方は片付けられる。足が不自由で、歳も80はいっている。

問題は若い男だ。

いざとなったら。

そんなことを考えていた、その時。












『ガサッ』
















意外や意外、その男は、じーさんの布団に潜り込んだのだ。





ん?どういうことだ?






頭が混乱する。

息子か?一緒に住んでいる同居人か?

分からない。

が、ひとつ解ったのは敵ではないということだ。

まぁいい、朝も早いから眠りにつこう。

そう思い、瞼を閉じた、その時。
























『シコシコシコ………』



























!?!?!?!?!?!?!?!?!?




















なんやこの音は!

静まりかえった一室に不審な音が響く。





『シコシコシコ………』






絶え間なく続く雑音。

体が硬直する。

ま、まさか……………。






そう、そのまさかだったのだ。

次第に荒くなる二人の息づかい。

ま、間違いない!!

僕の疑いは、確信に変わった。

じーさんと若い男は甘い声を囁きあい、…






ーーーーーーーー以下自粛ーーーーーーーー


















まさか、まさかとは思ったが。

てかじーさん、80くらいやで、元気すぎるやろ!!笑

てか、なんで僕を泊めた!?

いや、もしかしたら、次の餌食は僕かもしれない。

不安で眠れない。

聞きたくもない雑音は、全神経を集中させた耳に突き刺さる。

もういやや…













一時間後、一連の仕事を終えた若い男は、スッキリとした顔で出ていった。

出る間際。

若い男は僕の寝顔をまじまじと見つめる。






「ま、まずい。」







全身が強ばる。






「もう、おしまいだ。」







僕の25年間守り抜いてきたものは、今日という悪魔の日によって終わりを告げる。

そう諦めかけていた、その時。














『じゃあな、じーさん。』















男は颯爽と夜の闇へと消えていった。






「助かった…」






なんていっとる場合やない!

もうここから逃げよう。

眠れない夜を過ごし、早朝5時。

逃げるようにして、悪魔の住む小屋を後にした。

















「助かった…」
















まだ夜が明ける気配のない真っ暗闇の中、僕たちはライト片手に逃げるように先を急いだ。
















後ろから不審な人影が近付いてくる事も知らずに…

第八話 ジジイ・テレサ


「まじおせーわ。もうほんまいい加減にしてくれや。」







その時、僕は金太郎を罵っていた。

ほんま自分勝手に始めた無銭旅。

当然のごとく、金太郎も僕も、今まで手に入っていたものが入らなくなる。

一番致命的なのが食糧だ。

今まで僕のご飯は、米にインスタント麺、いいときにはトマトなどの野菜を入れて煮込んでいたもので賄っていた。

しかし、今では野菜もインスタント麺も尽きて、残り少ない米を節約して炊いたおかゆに、塩をかけたもの。

腹はかろうじて満たされるが、心は満足しなかった。

金太郎のエサも、名前が分かり安定して手に入るようになっていたが、野に生える草に逆戻り。

食事に手間取り安定して進めなくなっていた。

極めつけには、野に生えるエサの量が格段に減っていた。

ゴールのジャイサルメールに近付いたからだろう、

突如野生のラクダが現れるようになったのだ。

ということは、だ。

野生のラクダは何を食べるか。

もちろん、金太郎と同じ、野に生える草である。

ラクダが好む草は激減する。

残るのは、以前にも増して生き生きしていない、か細い草。

その、か細い草を例の通りお上品にたしなんでいる。

もう一週間以上風呂に入ってない。

いくら夜が寒いといえ、日中は35度まで温度が上がる。

もう、からだ中から犬のような臭いがする。

いくら神様から動物愛を学んだといえ、人間追い込まれると醜くなるもの。

今日もがっつりと罵っていた。







先に進みたい。

でも、その思いで金太郎の食事を省くと、もちろん金太郎は死ぬ。

かといって、金太郎のエサの時間を取りすぎて、ゴールまで辿り着くのが遅れると、僕の唯一の食糧である米が底をつく。




どうすればいいんだ。

やっぱり金太郎を捨てるしかないのか。

今なら野生の仲間たちもいる。

お前も野に帰りたいよな?

そんな都合のいい考えが日に日に頭の中で膨らんでいく。

虚ろな目で、金太郎が食事をするのを眺めていた。

そんな時。























『げ、げんきかーばかやろーーー!!!
フハハハハハー!!』

















うお、なんだなんだ!?

なんか爆発したんちゃうか?

ほんまにそんな音やった。

おそるおそる振り返ると、一人の老人がいた。

歯の抜けた、頭には白い布をまとった、お爺ちゃんだった。





『元気かー!!!!!
今日もあちぃーのー!
@%&#+#%%+$#%!!!!!』





す、凄まじいボリュームや。

おじいちゃん、僕が目の前にいるの分かってるかな?

そのボリュームは100mくらい先の人を呼び止める為に出すボリュームだよ?







『@%##%%¥&@&@#&@¥&@@@#&ー!!!!!』






怒号のような叫び声が2mくらい先に立つ僕にぶつけられる。

が、何を言っているのか全く分からない。

反応のない僕を見て諦めるか、

と思いきや、一向に諦める気配がない。

むしろ激しさを増す。







『@&%@##%%@#&¥ーーー!!!』








30分くらい続いただろうか。

このシュールな状況に気付いた男がやってきて、通訳をしてくれた。

通訳によると、お爺ちゃんがついてこいと言っているようだ。




「えー、今飯食わせてんだけどなー。」




それでも怒号は止むことはない。

先に進みたいところだったが、あまりの声量に降参して、お爺ちゃんについていくことにした。






するとどうしたことだろう。

目の前に広がるのは大きな農場だった。

そこには大量の牛たちがいた。






「お爺ちゃん、農場なんて連れてきてどーするんだよ。僕は急いでんだよ。」






お爺ちゃんは相変わらず、怒号のように声を張り上げながら、奥に入っていった。

かと思えば、何やら大きな樽を頭にのっけて帰ってきた。











「あ。」














中には大量のエサが入っていた。










「お、お爺ちゃんありがとう。
や、やけど、僕今金使われへんねん。
エサ代払われへんから草食わせてんねん。」









すると、お爺ちゃんはにっこりと、顔をくしゃくしゃにしながら言った。










『フハハハハハーー!!
金なんていらねーぞ、バカヤロー!!!
その為にこの農場があるんだからな!
@#&¥$&%&ーー!!!!!』




















ん?

どういうことだ?

その為にこの農場があるとはどういうことだ?






『ここにいる牛たちも
みんなタダメシ食ってるってわけよ、
気にすることはねーぞ、
フハハハハハーーー!!!!!!』











このあと通訳を通して聞いた話によるとこういう事だ。




インドには牛を食べる習慣がない。

牛は神と崇められている。

しかしながら、牛からとれる牛乳は、一日になん十杯と飲む習慣があるチャイ(インド風ミルクティー)に必要不可欠だ。

その為、乳牛は家畜として、村を中心に至るところで飼われている。

しかし、長年搾りに搾られ、乳が出なくなった牛は、牛肉を食べないインド人にとって、エサを食いつくす邪魔者でしかなくなる。

いくら神様だといえど、用はないのだ。

その、ラ・フランス、あ、用なしになった牛たちは野原へ返されることとなる。

するとどうなるか。

食いぶちを失った牛たちは、人間が集まる集落に集い、捨てられたゴミや、ダンボールをあさり、食い繋ぐこととなる。

神様と崇めた結果、街で神様がダンボールをたべるという、なんとも本末転倒な事態となっているのだ。







この事態に心を痛めた人々は、お寺に救いを求め、牛たちを保護し、ふさわしい環境で命を終えられるよう、この農場をつくった。

僕たちが訪れたのは、いわば牛たちの駆け込み寺だったのだ。

な、なんてラッキーなんだ。

というか、インド人の動物に対する愛に驚かされる。

以前出会った神様といい、この農場をつくった人たちといい、動物を同じ生き物として捉える心が日本人に比べて圧倒的に大きい気がする。






なんとか、金太郎の腹を満たすことができた。





「ぐぅーっ」





その安心からか、今度は僕のお腹の虫が暴れだした。






『グハハハハハーー!!
お前も腹がへっただろ!
ほら食え!!』






チャパティーに野菜のソースを塗って挟んだサンドイッチだ。





「う、うめーよ、うめーよ、じーちゃん!」






久々に味覚を感じた舌が踊り狂う。





『グハハハハハーー!!
いいってことよ!!!』





その日、お爺ちゃんと一緒に農場で眠らせて貰うことになった。





『寒くなってきたのー!
チャイでも啜ろうか、
グハハハハハーー!!!』






夜はかじかむほど冷えるこの地域。

その為、この地域では、朝夕と、焚き火をしながらチャイを啜るという習慣がある。

冷えていた心と体が暖まっていくのを感じる。

真っ暗な中、お爺ちゃんと二人で焚き火に木をくべながら、星を眺めた。





「あぁ、今日の星はいつもより綺麗だなぁ。」





昨日までの苦しかった日々を思い返し、感慨に浸っていた。






























『グハハハハハーーー!!!!!
いいってことよ!
グハハハハハーーーーー!!!!!』




























お爺ちゃん、えぇとこやったのに…





インドには、マザー・テレサだけやなくて、ジジイ・テレサもおるんやな。




「もう少し、もう少し行けそうな気がする。」




燦々と煌めく星空には、お爺ちゃんのばかでかい声が轟いていた。

第七話 お金と旅

国道に出てから、旅の様子がガラッと変わった。

車を避けながら歩く為に、金太郎のスピードは前に比べて大きく落ちる。

出会う人々の反応も大きく変わった。

相変わらず声はかけられるが、なんとなく距離感がある。

ここは、大きな都市と都市を結ぶ道。

当然外国人が訪れる観光都市も含まれる。

その為、稀な外国人ではなく、商売相手の外国人っていう感じなのだ。






どんな場所にいても、日は昇り、そして沈む。

今日も既に日は沈み始めていた。



『どこに眠ろうか。』



それが気掛かりだった。

ここは国道沿い。

車の往来が激しく、昼夜を問わず人目が途絶える事がない。

そんな中、自分の体ひとつならまだしも、金太郎の巨体を隠すのは不可能に近い。

かといって、うちに泊まれなどという、仏の声もかからない。

どこに泊まればいいのか検討もつかない。

そんな中、あるひとつの情報を得た。






『ダバ』なら仮眠をとる事ができる。






ダバというのは、主にトラック運転手用に設けられた休憩所。

インドという広大な土地を駆け巡る運転手たち。

当然運転時間も並大抵のものではない。

その運転手たちが、食事、トイレ、夜の仮眠をとるような場所として、ダバは存在している。

いわば、日本の道の駅のようなものだ。





『しめた!』






急いで教えてもらったダバとやらに向かう。

ダバに到着すると、情報通り、多くの運転手たちが、長旅を癒していた。

早速交渉に入る。




『一晩泊めて貰えませんか?寝床がなくて困っているんです。





いいよ!



店主は意外とあっさりと許可をくれた。

助かった。

今夜もなんとか夜を繋げそうだ。

ほっとしながら、金太郎のパッキングをほどく。

すると、何やら店主が寄ってきて肩を叩く。

振り向くと店主は手を差し出していた。

おぉ、ありがとう、手伝ってくれるんか、てんきゅー!

店主は首を振る。

じゃあなんや?


























『金だよ金、400円。』




























はい?










あの、お金は要らないと聞いたんですけど。

すると、店主は信じられない事を口にする。


















『おぉ、無料だぜ。やけどな、お前は外国人だ。金を持っているやつが、金を払うのは当然だ。』
























愕然とした。

こんなにもあからさまに、外国人として区別されたのは初めてだった。








考えてみれば当たり前なのかもしれない。

ラクダといえば、お金持ちの象徴。

そのラクダを連れて、娯楽の旅をしている外国人。

現地人と比べるととんでもない金持ちなのは明らかな事実。

加えて、日は暮れてしまった。

ラクダを連れて途方に暮れているのは明らか。

足元は、がら空きだ。







確かに僕はお金を持っている。旅ができる、ラクダを買うことができる余裕がある。

だけど、それはそうなのだけども、同じ人間なのに、こうも堂々と区別されたのがショックだった。

払って泊まってしまえば簡単だ。

安心して疲れを癒すことができるだろう。

だけど、だけど、それでいいのか。

こんな不当な区別をお金で誤魔化してしまってもいいのか。

僕たちよそ者は、この人たちにとってお金でしかないのか。

お金を通してじゃないと繋がることが出来ないのか。

正直400円くらい払うのは容易い。

やけど、このお金を払うことで、大切なものを失う気がした。















『決めた、ゴールするまでお金は使わない。』

















ゴールまで250kmほど。

約10日間。

それまでお金は封印する。












店を離れる。

思いは伝わらなかった。

店主は何故、たかが400円をケチるのか訳が分からないと、呆れ顔で僕を眺めていた。












外に出ると、日は完全に沈んでいた。

真っ暗闇の中、懐中電灯片手に国道の脇に繁る藪の中を進む。

トゲだらけの枝を掻き分けながら、なるべく人目のつかない場所を探す。

枝を調理用の包丁で切り割いて、なんとか金太郎と僕のスペースをつくる。

辺りからは人の声。

国道を通る車のライトが何かに反射して、不審者を探す懐中電灯のように僕たちを照らす。

その光に一人怯える。








『村に戻りたいな。』






村人の暖かさが当たり前になっていた自分に気付く。

目を閉じながら思う。

あぁ、あの400円を払えば、今頃安心して眠りについているんだろうな。

これでよかったんかな。






答えの出ないまま意識は遠のいていった。

第六話 道を失う

心が晴れると、自然と顔もほころぶ。

ほんで、自然と溢れる笑顔ってのは不思議な力を持っていて、素敵な出会いを造り出す。

神様と出会ってから、素敵な出会いに恵まれ始めた。

ある時は、一家50人くらいで暮らす、明るくて元気を貰えるお家に招待され、

また時には、家の中にバカでかい寺を持つ大豪邸でくつろがせてもらえたり、

自分の家じゃないのに、持ち主に確認もとらず、勝手に宿泊許可をくれるおっちゃんと出会ったり。笑

多分心ってのはダイレクトに顔に現れるんやろう。

僕の旅はフィーバーしていた。

戸惑いながら始めたラクダ旅。

てんやわんやもがきながら、少しずつ要領を得始めた。

村を駆け抜けるラクダ旅のコツみたいなものを得始めていた。

『これは行けるかもしれんぞ。』

そう思い始めていた、思い始めていたんだ、あの時は。










のどかな村々。

砂漠でないといえど、細くこじんまりと続く道。

大きな車なんて通らないし、

コツを掴み始めた僕は、

自分に浸り、大好きな唄

『カントリーロード』

を大熱唱しながら、優雅に悠々と歩いていた。








『あの、次の村へはどの道を通ればいいでしょう。』


以前書いたが、僕は出発前に教わった、通過する村々の名前を尋ねながら進んでいる。




これだ。



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ここには14の村が記されており、ようやく8つ目の村までたどり着いた。

1つの村と村の距離はおおよそ20キロ。

そのため、村と村とはさほど遠くなく、1日2日かけて、村と村を繋いでいた。







8つ目の村まで着き、いつものように村人に尋ねる。


『9つ目の村、ラムデオラまで行きたいんやけど。』


すると村人は微かに笑いを含んで、こっちやと指を指す。

なんかおかしい、なんで笑ったんや。


『どうした、なんで笑うんや?』


おっちゃんはニタニタしながら、驚くべきことをいい始めた。



















































『やってさ、ラムデオラまでは200kmあるぜ。』











































え?

にひゃっきろ?























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インド人もびっくり。

嫌な予感がする。


いやいや、おっちゃん、ラムデオラやって、次の村、次の村。


『ラムデオラやろ?200kmで間違いない。』


う、うそや。

誰に尋ねても答えは変わらない。








詳細はこうだ。





全行程600km。

その間に通る村々を、バランスよく並べてもらった。

はずやった。

いや、そう勝手に思い込んでいた。

が、しかし。












実際はこんな感じ。



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おっちゃんは、覚えている村を並べただけ。

という感じ。







うそーん!









てことはだ。

ここから次の村までの道のり200kmの情報は皆無。

なんだか嫌な予感がする。









しばらく歩く。

すると、驚きの光景が目の前に現れる。








『あ。』













































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目の前に広がるのは、ばかでかいトラックターが、あり得ないスピードで爆走する、だだっ広い道。

そう、インド共和国政府が手塩にかけた、国道に出てしまったのだ。

それもそのはず。

今までは次の村まで程近く、細かい情報が手に入った。

がしかし、200km先となると、現地人は自然と一番大きな通りを薦めてくることとなる。

僕は小さな村を繋ぐ道を行きたい、と尋ねたいところだが、

『水、食べ物、金』

くらいしか話せないヒンディー語で、こんな細かい情報を得るのは不可能だった。






別に国道でいいやないか、そう思う人もいるかもしれない。

しかし、これには大きな問題がある。

まず、道。

これまでの道は舗装されていない、砂や土からなる道。

車にとっては走りにくい道だろうが、僕の移動手段はラクダちゃんだ。

砂や土からなる柔らかい道。

これが、バチバチのコンクリートからなるガチガチの道に変わる。

当然、金太郎の膝には大きな負担となる。

さらに、鳥のさえずりが聴こえるような、のどかな田舎道だったものが、

大型ダンプカーが我先にと爆走を続けるレースサーキットに変わる。

その横をよちよちと時速5km弱で進む。

当然大事故の可能性が格段と増す。

加えて、公の道をラクダと共に歩くこととなる。

当然、警察や管理人等の目にふれるだろう。

ラクダに乗った外国人は、不審者以外の何者でもない。

何らかの面倒な事に巻き込まれるかもしれない。







それでも、どうあがいても新たな情報は手に入らなかった。








行くしかない。










一難去ってまた一難。

せっかく馴れ始めた、村旅に別れを告げ、

広大に広がる、国道を歩いていく旅が始まる。

明らかに変わった道に、金太郎も戸惑っていた。

















出発前: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/03/111033

第一話: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/26/183646

第二話:http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/27/173210

第三話: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/28/164651

第四話: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/29/171841

第五話:http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/30/222231

第五話 神様との出会い

『あぁ、帰りてぇなー、帰りたい。ってもどこに帰ればいいか分からんのやけどね。』



旅の初めは、火から起こして料理するとか、なかなか粋やな。

なんて思っとったけど、今は面倒以外の何物でもない。

インドの荒野にある木は、何故かどんな植物にも、イカツい強靭なトゲが所狭しと蓄えられている。

そのせいで、手はあらゆるところの皮が剥けてその傷にまた新たなトゲが刺さりで、悶絶する。

植物もインドで生きていくのは大変なんだろう。

米にインスタント麺をぶち込んだ、なんとも粗末なご飯が心を虚しくさせる。

ひもじい昼食を食べていると、何やら人の声が聞こえてくる。


『フォッフォッフォッー』


振り向くと立派な白い髭を蓄えたじーちゃんが、ぽつんと立っている。


『フォッフォッフォッー』


なんやねん、不気味やな。


『フォッフォッフォッー』


じーちゃんは、僕の隣にちょこんと座る。

なんやねん、じーちゃん。


『フォッフォッフォッー』


あかん、このじーちゃんイッてるわ。

急いでパッキングを済ませ、逃げるように出発した。

が。


『フォッフォッフォッー』


やばい、ついてくる。

しばらく歩くと、村に差し掛かった。

するとじーちゃんは、僕の腕を掴み、家の中に連れ込む。

なんやねん、なんか怖いねん。


『フォッフォッフォッー』


じーちゃんはそう言いながら、1つのベッドを俺の前に持ってきた。

へ?


『フォッフォッフォッー』


多分、たぶんだ、この感じからすると、恐らく9割くらいの確立で、ここに寝てえぇっちゅうことや。


『フォッフォッフォッー』


じーちゃんは次にベッドの回りで、ガサガサ作業に取り掛かる。

なんやろうか。

黙って見ていると、じーちゃんは木と紐とビニールで、何かをつくり始めた。


『フォッフォッフォッー』


30分後、じーちゃんは満足気な顔で僕を見つめる。

そこには、ちいさな小屋が作られていた。

多分だ、恐らくこの感じからいって、95%くらいの確立で、この小屋で眠っていいということや。









しばらく横になる、

すると、金太郎を休ませている辺りから、なんか物音がする。

なんやろうか。

近付いてみる。

すると、じーちゃんが金太郎にエサを与えているではないか。

『あ、忘れてた。』

昼飯時に、例の草を食べさせたきり、自分の事で精一杯になり、金太郎のエサの事なんか頭になかった。

じーちゃんは、その後、近くの水飲み場まで、金太郎を連れていった。

じーちゃんは金太郎が歩く道に落ちるトゲを1つ1つ丁寧に取り除きながら、金太郎をエスコートしていた。

はっとさせられる。

僕は今まで、ラクダの足は頑丈やから、少々のトゲなんて大丈夫やろと思い込んでた。

やけど、ラクダやって痛いに決まっとる。

痛くて痛くてしゃーないかもしれん。

それ以外の行動もそう。

じーちゃんの行動を通して、僕がどれだけ金太郎を同じ生き物として見れていないのか、まざまざと叩きつけられた。


『あぁ、僕はラクダ使い失格やな。』


金太郎の目を見ると、



『お前じゃねぇんだよ』



って言われてる気がした。









夜、じーちゃんは、晩御飯を御馳走してくれた。

具がほとんどないカレースープと、
小麦粉を捏ねて焼いたチャパティーというパン。


『フォッフォッフォッー』


じーちゃんは休む暇もなく、僕の皿にお代わりを供給し続ける。




いや、僕もうお腹いっぱいやから。









『フォッフォッフォッー』
チャパティー2枚追加。










頑張って食べきる。













『フォッフォッフォッー』
チャパティー2枚追加。












死ぬ気で押し込む。














『フォッフォッフォッー』
チャパティー3枚追加。















おいこらー!もう食えんっちゅうねん!!


『フォッ?』







最高に旨い晩御飯が終わって、くつろいでいた。

大体がこの時に凄まじい質問攻撃となる。

が、じーちゃんは何一つ聞いてこない。

今現在じーちゃんの中にある情報は

・恐らく外国人
・恐らく男
・なぜかラクダを持っている

という情報のみ。

当然質問だらけのはずだ。

すると。

じーちゃんは電話を始めた。

あー、これで通訳してもらっていろいろ聞くつもりやな?



『フォフォフォッ?フォーフォフォ!』



何やら話している。

やがて、予想通り電話が回ってきた。

電話口には一人の男がいた。


『はろー!じーちゃんが、この家は安全やから安心してゆっくり寝てねやとさ!』









へ?それだけ?

それだけだった。

それを伝える為だけに、おっちゃんは電話したんや。

見ず知らずの、

いや、何処の国の、

何をしてて、

何故かラクダを持っている、

得たいの知れない人間に、

何故ここまでしてくれるんやろう。

感動なんてしなかった、できんかった。

只々なんでやろうって思いが頭の中を渦巻いた。








翌朝、じーちゃんは僕よりも早く起きて金太郎のエサをこしらえていた。

やがて家には村中の男が集まり、僕の出発を見守っていた。


『フォッフォッフォッー』



じーちゃんの愛は、外国人の僕にも、

ラクダの金太郎にも、

じーちゃんの仲間や家族にも、

同じように注がれていた。






あぁ、この人はほんまに神様なんかもしれん。









『今まで出会った中で最も神に近い男。』









いや、多分あのじーちゃんは神様やったんやないかな。


感謝というか、不思議でたまらないフワフワした感覚で、じーちゃんの家を後にした。
























『ゲブゥォォォォォォォォッ!!!!!』





















お腹も心も満たされた金太郎のげっぷが僕の顔面を直撃した。

あぁ、今日も始まったんやな。















出発前: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/03/111033

第一話: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/26/183646

第二話:http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/27/173210

第三話: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/28/164651

第四話: http://masahirourabayashi.hatenablog.com/entry/2017/01/29/171841